実家じまいとは?進め方の全体像と最初の一歩

「実家をどうにかしなければと思うけれど、何から手をつければいいのか分からない」

実家の片付けや売却を考え始めたとき、そんな戸惑いを抱くのは自然なことです。
私も父を見送ったあと、誰も住まない実家を3年間そのままにし、帰省するたびに庭の手入れと郵便物の整理だけをして帰っていました。

しかし、実家じまいは家の中を空にする作業ではありません。
家族の希望、相続の期限、不動産の名義、家財、契約を順番に整理し、実家の次の役割を決める仕事です。

こんにちは。
元住宅メーカー営業で、宅地建物取引士・2級ファイナンシャル・プランニング技能士の家守誠です。
この記事では、実家じまいの意味、始めるタイミング、進め方の全体像、今日できる最初の一歩までを順に解説します。

実家じまいとは、家を捨てることではない

実家じまいとは、親が暮らした家について「誰が、いつまでに、どうするか」を決め、家財・権利・契約まで整理して区切りをつけることです。
売却だけがゴールではなく、家族が住む、第三者に貸す、一定期間管理する、建物を解体して土地を残すという結論も含まれます。

似た言葉に「遺品整理」や「空き家処分」がありますが、扱う範囲が違います。
遺品整理は主に家財を整理する作業で、空き家処分は不動産を手放す工程を指すのに対し、実家じまいは家族の合意から名義変更、家財整理、契約解約までをつなぐ一つの計画です。

実家じまいを片付けだけだと考えると、家族の承諾がない品を捨てたり、相続登記を後回しにしたりして、工程が途中で止まります。
先に決めるのは処分方法ではなく、関係者と期限です。

国土交通省が2025年に公表した令和6年空き家所有者実態調査では、空き家の取得方法の57.9%が相続でした。
一方、相続前に何らかの対策をしていた世帯は23.0%にとどまり、77.0%は対策をしていませんでした。
実家が空いたあとに慌てて考える家庭のほうが、ずっと多いのです。

実家じまいを始めるタイミングは4つある

実家じまいに「この日から始める」という一律の開始日はありませんが、親と話せる時期に情報だけでも整理すれば、後の負担は確実に減ります。
状況によって初動が違うので、まず自分がどこに当てはまるかを確認してください。

現在の状況最初に確認すること急いで決めなくてよいこと
親が元気に暮らしている親の希望、家の名義、重要書類の場所売却時期、家財の処分先
親が施設へ入居・長期入院した自宅へ戻る見込み、管理担当、毎月の維持費売る・貸すの最終決定
親が亡くなり相続が始まった相続人、遺言、負債、法的な期限大規模な片付けや解体
すでに空き家になっている名義、建物の状態、郵便・保険・近隣対応リフォームの実施

親が元気なうちは「処分」ではなく「情報整理」から

親にいきなり「この家を売るのか」と尋ねれば、自分の居場所を奪われるように感じさせます。
「入院や災害のときに困らないよう、家の書類と連絡先だけ一緒に整理したい」と切り出せば、今の暮らしを否定せずに話を始められます。

この時期に確認したいのは、不動産の名義、住宅ローンや借入金の有無、火災保険、固定資産税通知書、権利証または登記識別情報、遺言の有無です。
売るかどうかは決めなくても構いません。

施設入居や長期入院では「戻る見込み」と「暫定管理」を分ける

施設へ入った直後は、家族も親本人も今後の暮らしを決め切れません。
その段階では、家を手放す判断と、換気・通水・庭木・郵便物・防犯を誰が担うかという暫定管理を分けます。

「結論が出るまで何もしない」は、管理担当がいない状態を選ぶことです。
家の鍵を持つ人、月1回の確認をする人、費用を立て替える人の3点だけは決めておきます。

相続後は、片付けより期限の確認が先

相続が始まったら、財産を受け継ぐかどうか、不動産の名義をどうするか、相続税の申告が要るかを先に確認します。
期限は、葬儀や法要が落ち着くまで待ってくれません。

手続原則の期限最初の相談先
相続放棄・限定承認相続開始を知った時から3か月以内家庭裁判所、弁護士
相続税の申告・納付相続開始を知った日の翌日から10か月以内税務署、税理士
相続登記不動産の相続取得を知った日から3年以内法務局、司法書士

相続放棄は、裁判所の案内にあるとおり、自己のために相続が始まったと知った時から原則3か月以内です。
借金の有無が分からず相続放棄を検討しているなら、家財を売却・処分する前に家庭裁判所や弁護士へ確認してください。

相続税の申告が必要な場合は、国税庁の相続税申告手続で示されているとおり、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
相続税がかからない家庭でも、財産の調査と遺産分割は別に進めます。

実家じまいの全体像は7段階でつかむ

実家じまいは、すべてを同時に片付けようとすると止まります。
次の7段階に分けると、今どこにいて、次に何を決めるのかが見えます。

  1. 親の生活状況、相続の発生、法的期限を確認する
  2. 親と家族の希望、相続人、進行役を整理する
  3. 不動産・財産の書類と捨ててはいけない物を確保する
  4. 家、土地、家財、借入金、契約の現状を一覧にする
  5. 住む・貸す・売る・管理する・解体する選択肢を比べる
  6. 家財整理、査定、登記、売却などを実行する
  7. 電気・水道・通信・保険・郵便などを解約または変更する

この順番の要点は、合意と権利を物の処分より前に置くことです。
誰の家か、誰が決めるかが曖昧なまま片付けを始めると、思い出の品をめぐって揉めるだけでなく、売却の契約段階で名義の問題が表面化します。

1段階目から4段階目は「決めるための土台づくり」

最初の4段階では、まだ不動産会社や片付け業者と契約する必要はありません。
家族関係、名義、期限、物の量、建物の状態を把握し、判断材料をそろえます。

この時期の成果物は、家を空にすることではなく、情報の抜けを見つけることです。
登記事項証明書を取ったら祖父名義のままだった、通帳を確認したら知らない借入れの引き落としがあった、といった事実が次の順番を変えます。

5段階目から7段階目で「家の出口」を実行する

情報がそろったら、家の使い道を比較し、家財整理と不動産手続を組み合わせます。
売却する場合でも、先に家財をすべて処分するとは限らず、現状のまま査定を受けたほうが解体や修繕への無駄な支出を避けられます。

最後に残りやすいのが、電気、水道、固定電話、インターネット、新聞、警備、火災保険、郵便物です。
売買や引渡しの日から逆算し、止める日と名義変更する日を一覧にします。

最初の一歩は「現状確認シート」を1枚作ること

「結局、今日何をすればいいのか」と迷ったら、片付け道具を買う前に紙を1枚用意してください。
そこへ次の項目を書くだけで、実家じまいは動き始めます。

  • 親の居住状況と判断能力の状態
  • 不動産の現在の名義人
  • 話し合いに参加する家族・推定相続人
  • 遺言書、権利証、固定資産税通知書がある場所
  • 借入金、住宅ローン、連帯保証の有無
  • 家を住む・貸す・売る・管理する各案への希望
  • 次に現地へ行ける日と、初回家族会議の日

全部埋まらなくて大丈夫です。
空欄が、そのまま調べることの一覧になります。

私の実家じまいが3年止まった原因は、家族の仲が悪かったからではありません。
誰が何を確認するかを決めず、全員が「そのうち誰かが動くだろう」と思っていたからです。
紙1枚で担当と次回日を決めれば、曖昧な心配が具体的な作業へ変わります。

最初の家族会議は30分でよい

初回の家族会議で、実家の最終結論まで出そうとしないでください。
30分で確認するのは、現在地と次の担当だけです。

  1. 親本人は今後どこで暮らしたいか
  2. 家を使いたい家族がいるか
  3. 現在の名義と遺言の有無を誰が確認するか
  4. 当面の管理を誰が担い、費用をどう記録するか
  5. 次回までに誰が何を調べるか
  6. 次に話す日をいつにするか

兄弟姉妹が遠方に住んでいるなら、対面にこだわらず電話やオンライン通話で始めます。
議事録は立派な文書にせず、決まったこと、未決事項、担当、期限を1ページに残せば十分です。

親への切り出し方に迷うなら、次のように伝えてみてください。

この家をすぐ売る話ではないよ。
もし入院や災害があったときに困らないよう、書類の場所と連絡先だけ一緒に確認しておきたいんだ。

親が答えたくない項目は、その場で追及しません。
一度で決め切るより、話を続けられる関係を残すほうが、結果として早く進みます。

家の出口は5つの判断軸で比べる

住む、貸す、売る、管理する、解体するという選択肢には、それぞれ向く条件があります。
思い入れだけでも査定額だけでも決めず、5つの軸で並べてください。

判断軸確認する内容
使う人親や家族が今後住む予定はあるか
時間いつまでに結論を出すか、何年保有するか
お金維持費、修繕費、税金、片付け費用を誰が負担するか
建物雨漏り、傾き、設備故障、耐震性に問題はないか
市場性売却査定、賃料査定、需要を確認したか

「いつか子どもが住むかもしれない」という案には、期限を付けます。
たとえば2年後に再検討すると決め、2年間の固定資産税、保険、管理、交通費を合計すれば、保有する判断を数字で比べられます。

売却や解体を考えているなら、工事を発注する前に複数の不動産会社へ現状のまま相談します。
更地にすれば必ず高く売れるわけではなく、買主が古家を使いたい地域や、解体費を売主が負担しない売り方もあるためです。

家財整理は「捨てない箱」から始める

家財整理の初日に必要なのは、大量のごみ袋ではありません。
まず「捨てない箱」を一つ作り、判断や手続に関わる物を避難させます。

  • 遺言書らしき封筒、エンディングノート
  • 権利証、登記識別情報、固定資産税通知書
  • 通帳、印鑑、保険証券、借入れの書類
  • 売買契約書、建築確認書、測量図、境界確認書
  • 年金、介護、医療、勤務先に関する書類
  • 貴金属、骨董品、記念硬貨、未使用切手
  • 家族写真、手紙、アルバム、親族が預けた物
  • 家と物置、金庫、車の鍵

写真は、残すか捨てるかを現地で一枚ずつ決めると時間が尽きます。
迷う物は撮影し、箱番号を付け、家族が後から確認できる状態にしておきます。

家財の売却益で片付け費用を補える品もありますが、相続放棄を考えている段階では勝手に売却しません。
価値が分からない物、名義が本人以外の物、親族が預けた物も、査定と処分を分けます。

実家じまいで避けたい順番の失敗

実家じまいで生じる失敗の多くは、何をしたかより、順番の前後から起きます。
特に次の行動は一度止まって確認してください。

  • 家族へ知らせず、思い出の品をまとめて処分する
  • 相続放棄を検討中なのに、家財や不動産を売却する
  • 査定を取らず、先に高額な解体やリフォームを契約する
  • 名義を確認せず、買主探しだけを進める
  • 遺言書らしき封筒を見つけ、その場で開封する
  • 管理担当を決めないまま、長期間空き家にする
  • 立替費用の領収書を残さず、後で家族に一括請求する

相続登記は2024年4月1日から義務化されました。
法務省のQ&Aでは、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内の申請が示され、2024年4月1日より前に相続した未登記不動産も対象です。

古い実家ほど、登記が祖父母名義のままという例があります。
固定資産税を親が払っていた事実と、登記上の所有者が親であることは同じではないため、登記事項証明書で名義を確認します。

相談先は「止まっている工程」で選ぶ

実家じまいを一社へ丸ごと任せようとすると、相談先選びで迷います。
困り事ではなく、止まっている工程に合わせて専門家を選ぶと整理しやすくなります。

止まっている工程主な相談先
相続人や遺産分割でもめている弁護士
相続登記、名義変更を進めたい司法書士、法務局
相続税、売却時の税金を確認したい税理士、税務署
売る、貸す、査定を比較したい不動産会社
家財の価値を調べたい買取事業者、専門査定業者
一般ごみや粗大ごみを処分したい実家所在地の市区町村
空き家管理や補助制度を知りたい実家所在地の自治体窓口

最初から全員へ相談する必要はありません。
期限が迫っているなら法律・税務を先に、不動産の名義が整っているなら査定を先に進めます。

費用を抑えたいときも、すべてを自分で抱えないことです。
専門家に依頼する作業、家族で行う作業、事業者に見積もりを取る作業を分け、見積書の対象範囲をそろえて比較します。

半年で進める場合のスケジュール例

実家じまいの期間は家族関係、物量、相続手続、売却条件によって変わりますが、目安の工程表があると先送りを防げます。
相続放棄や相続税など期限が短い手続は、この例より前へ置いてください。

時期主な作業
1か月目現状確認シート、家族会議、名義・遺言・期限の確認
2か月目重要書類の確保、財産・負債・家財・契約の一覧化
3か月目売却・賃貸・保有などの比較、査定、費用見積もり
4か月目方針決定、家財の仕分け、必要な登記・税務手続
5か月目家財搬出、修繕・解体の要否判断、不動産手続
6か月目引渡し、契約解約、鍵・書類・写真・費用記録の整理

予定どおり進まない月があっても、工程表を捨てる必要はありません。
未完了の作業を翌月へ移し、担当者と次の確認日だけを更新します。

まとめ

実家じまいとは、親の家を急いで空にしたり、思い出を捨てたりする作業ではありません。
家族の希望、相続の期限、不動産の名義、家財、契約を正しい順番で整理し、家の次の役割を決める計画です。

最初から売るか残すかを決める必要はありませんが、片付けを始める前に、関係者・名義・期限を確認します。
今日の30分で現状確認シートを1枚作り、次に話す日をカレンダーへ入れてみてください。

私が実家を3年間置いてしまった経験から、これだけははっきり伝えられます。
実家じまいに「早すぎる」はありません。
あるのは「もう少し早ければ」だけです。